ちよ先輩のてのひらの上。
お腹の底で、祈るように助けを求めたその時。
——突如、シグナル音がけたたましくあたりに響き渡り、鼓膜がビリビリと震え上がった。
な、なにっ?
聞いたことのあるサイレンに、一瞬思考が止まる。
紺野くんも、半ば反射的に廊下を伺った。
——その瞬間、拘束が緩んだのを、私は見逃さなかった。
僅かな隙をついて、力一杯に目の前の体を押した。
後ろへとよろけた紺野くんをそのままに、身を翻す。扉を力任せに開くと、私は廊下へと飛び出した。
「ちょ、待てって、……っ結城さん!」
サイレンが鳴り響く廊下を、必死で駆けた。
続いて、天井のスピーカーから、機械的な男性の声が降ってくる。
「火事です、火事です。4階で火災が発生しました」
——そうか。
これは、火災報知器のサイレンだ。
どこか冷静にそう気づきながら、私はブレーキをかけることなく、走り続けた。
そして、廊下の角にさしかかって——。