ちよ先輩のてのひらの上。
誰かと勢いよくぶつかった。
その人の胸に飛び込む形となってしまい、慌てて後ろに飛びのこうとする。
けれど、グッ、と力強く引き戻され、大きな体にすっぽりと包み込まれてしまった。
ふわりと鼻をくすぐる香りに、胸が疼いた。
「……なあ」
背後で紺野くんの低い声がする。
思わず体を震わせると、私の体に回る腕の力が強まった。
「逃げないでよ……結城さん」
「——紺野」
宥めるように、私の頭上から落とされた澄んだ声。
「……俺の忠告は、聞き入れてもらえなかったみたいだね」
その声を聞いた途端、勝手に、ぶわりと涙がこみ上げてくる。
引き寄せられるように、……ゆっくりと、私を抱きしめているその人を見上げた。
「残念だよ」
「……ちよ、先輩……」
呆然と呟くと、紺野くんを見据えていた瞳が、私へと移る。
瞬きとともに涙がこぼれると、視界が晴れて。ちよ先輩の柔らかな笑顔が、映り込んだ。
「遅くなっちゃってごめんね、ひなちゃん」