ちよ先輩のてのひらの上。
「……やめてっ!」
目の前の光景から逃れるように、瞼を閉じることしかできなかった。
暗闇の中で、周りの空気が、大きく渦巻いたような気がした。
カランッ、という音の後に聞こえた、鈍い音とうめき声。私はビクリと体を揺らした。
訪れた静寂。
聞こえた誰かの息遣いに、——恐る恐る、目を開けた。
紺野くんが、床に倒れていた。腕を捩じ上げられている。
そのすぐ傍に、カッターが落ちていた。刃物の部分は、綺麗なままだった。
……私はゆっくりと、視線を持ち上げていく。
ちよ先輩がしっかりと紺野くんを押さえつけながら、冷たい視線を落として、怖さを感じるほど整った微笑みを浮かべていた。
「ダメだよ。そんな危ないもの、人に向けたりしたら」
「くそ……っ。放せよっ!」
「面白いこと言うね。……放すわけないだろ」
落とされたのは、抑揚のない、いつもより低い声。
火災報知器のサイレンは、……いつの間にか、鳴り止んでいた。