ちよ先輩のてのひらの上。
「ううん。ありがと」
慌てて眼鏡を手渡すと、まだどこか眠たそうな目がレンズの向こうへと隠れた。幼かった印象が、少しだけ大人びる。
「その子が、そらの妹のひなちゃんだ」
「……そうだよ」
「写真より、実物のほうが可愛いね」
ニコ、と微笑まれ、私は熱くなった頬を隠すように、小さくなりながら頭を下げた。
……お兄ちゃんから、私のこと聞いてたんだ。
だから、名前を知っていたんだ。
——ていうか。お兄ちゃんってば、人の写真を勝手に……。
まさか、変な顔してるやつとかじゃないよね。
隣へ恨みがましい視線を送ると、何を勘違いしたのか、お兄ちゃんは「こいつが副会長」と説明をした。
「 千代崎だから、『ちよ』」
「よろしくね、ひなちゃん」
「……っこちらこそ、よろしくお願いします」
改めて、ペコリと頭を下げる。
——ちよ、先輩……。
忘れないため、噛みしめるようにその名を心の内側で反芻する。予期せぬ新しい出会いを喜ぶように、胸の奥が、とくんと震えた心地がした。