ちよ先輩のてのひらの上。


「誰にも、渡したくない」


先輩が、切なげに呟いた。


「……はやく、俺のもになってよ」


甘い響きを帯びた声を落としながら、先輩の顔が再び首筋にうずめられた。

触れられている箇所がじんじんと疼き、ぎゅっと目を瞑って耐える。

やがて、チクリとした痛みを感じて、私は弱々しく声を上げた。


「……ひなちゃん、熱いね」


くすりと洩れた吐息が、私の肌をくすぐる。

閉じていた目を開ければ、すぐ傍には、いつもと同じ先輩の微笑み。


あ……よかった。

どうやら、不安を取り除くことができたみたい。

ホッと安心したのも、束の間。


「すごく真っ赤になってる」


からかわれるように言われて、ますます体が熱くなってしまう。

も、もう……。さっきまでの可愛いちよ先輩は、どこにいっちゃったんだろう。

顔を隠すように、手を動かそうとしたけれど。


「こーら。隠さないの」


両手とも、しっかりとちよ先輩に捕らえられてしまった。

ベッドに縫いとめられるように押さえつけられ、何度も啄むように、唇を塞がれて。


「ねえ、ひなちゃん」


ぼうっとしてきた頭に、ちよ先輩の声が響いた。

< 222 / 225 >

この作品をシェア

pagetop