ちよ先輩のてのひらの上。
履きなれていない、買ったばかりのローファーで地面を蹴り、バス停に向かって私は全力で走った。
せっかく整えた髪が乱れるのも気にせずに、坂を下り、突き当りを右に折れる。
十字路で信号待ちをしているバスを横目に、青色が点滅を始めた横断歩道を駆け抜けて。
バス待ちの列の最後尾に、飛びつくようにして並んだ。
……間に、合った……っ。
私は足を止めると同時に、大きく息を吐き出した。
やってきたバスが速度を落とし、目の前で停車する。動き出す列の先頭で、お兄ちゃんの後ろ姿を見つけた。
あ、やば……。
サッと体を小さくして、スーツの男性の背中に隠れた。
お兄ちゃんがバスの前方へ進んだのを確認し、私は、後方へ。
やがてバスが動き出すと、先頭近くに立つ、文庫本へと目を落としている横顔に、こっそりと視線を送った。