ちよ先輩のてのひらの上。
***
『えー、続いて、歓迎の言葉。在校生代表——結城くん、お願いします』
あの後、無事にお兄ちゃんに見つからずに学校まで辿り着くことができた私は、入学式の退屈さに耐えていた。
あくびをなんとか噛み殺したところで、自分の苗字が呼ばれ、反射的に心臓が跳ねる。
壇上へ視線を向けると、生徒会長の結城そら——私のお兄ちゃんがマイクの前に立ち、新入生に向かって頭を下げた。
『——新入生の皆様、ご入学おめでとうございます』
マイクを通して、お兄ちゃんの落ち着いた声が体育館に響き渡る。
「……ねえ、かっこよくない?」
どこからか囁き声が聞こえてきた。
「やばい、私、タイプかも……」
「イケメンの生徒会長とか、ラッキーだね」
……やっぱり……。
私は周りに気づかれないくらいに、小さくため息をついた。
……そして、今朝の自分の判断を、心から褒め称えたい気分だった。