ちよ先輩のてのひらの上。


階段を降り、1階までやってきたところで、私はいよいよ我慢できずに先輩を呼び止めた。


「どうしたの、ひなちゃん」

「……あの。……その、手を……」


握られたままの右手へと視線を落とす。

たった今気がついたように、先輩は「あ」と声を上げた。

そっと放され、温もりに代わってひんやりとした空気が肌に触れる。


「ごめん。……もしかして、嫌だった?」


伺うように覗き込まれて、


「……い、いえっ」


私は、俯きがちに答えた。


「……びっくりしただけ、です」

「よかった」


嫌だなんて感情は、いっさいなかった。

むしろ、離れてしまった先輩の体温を、寂しいとさえ感じている。

だけど……。ちょっとこれ以上は、私の心が持ちそうになかったんだ。

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