ちよ先輩のてのひらの上。
それに、未だドキドキと高鳴っているままの胸に気づかれてしまったら大変だ。
『そうだったらよかったんだけど』
……先輩のあの言葉は、冗談に決まってる。
それでも、うまく受け流せるほど、私は大人じゃない。
……もう……。心臓に悪いよ。
「いきなりごめんね。……ちょっと、牽制しておこうと思ってさ」
「……牽制……?」
私は説明を求めるように先輩を見つめる。
「ほら……犯人は、いつどこで見てるかわからないから」
……犯人に、見せつけるために、ってこと?
でも、そんなことしたら……。
「……ちよ先輩にまで、迷惑がかかっちゃうかも……」
「俺の心配をしてくれるの?」
「だって……先輩は、本当は無関係なのに……」
「……ひなちゃん……」
さっきまで右手に触れていた先輩の大きな手のひらが、……今度は優しく、私の頬を包み込んだ。
下を向いていた顔を、両手で、そっと上へと向かされる。
私は、至近距離でちよ先輩を見上げる形となった。
目の前の綺麗な顔が、柔らかな微笑みを浮かべる。
「……優しいんだね」