ちよ先輩のてのひらの上。
くるりと振り返ると、ちよ先輩はまだ近くにいて。
綺麗な手がおもむろにこちらに伸び、私の耳をかすめる。
結んである髪をすくい取られて、……そっと顔を寄せられた。
「……結んでるとこ、初めて見たけど、……可愛いね。似合ってる」
「……」
「それだけ」
そう残すと、ちよ先輩は今度こそ私に背を向けた。
ジャージ姿が、校舎の影に消えていく。
先輩の背中が見えなくなっても、私はその方向を眺めていた。しばらくぽつんと立ち尽くしたまま、動けない。
……もう……。
……ほんっとに、もう……っ。
熱くなった頬に手を当て、その場にうずくまる。はあ、と深くため息をついた。
私の頭の中を占めていたポニーテールの横顔が、……ぼんやりと霞んで、綺麗に消えた。