ちよ先輩のてのひらの上。
男の子はラケットとボールを友達に預け、私の手を引いて、家まで付き添ってくれた。
その時の、涙でぼやけた視界に映る、お兄ちゃんより少し小柄な背中と、揺れる色素の薄い髪をはっきりと覚えている。
時折気遣うように私を振り返るその顔は、あまりよく覚えていない。
……確か、近所に住んでいた、お兄ちゃんの友達の内のひとりだった。
私はあまり、遊んだことはなかったけれど。
「それで、家に帰って、玄関でお兄ちゃんに出迎えられたときに、……私、言っちゃったんです」
話を聞いていた3人は、私を見つめ、続きを待った。
「お兄ちゃんなんか大っ嫌い、って。隣にいる男の子を指差して、この人がお兄ちゃんだったらよかったのに、って……」
「……うわあ」
「ほとんど、八つ当たりだったんですけど」
安川先輩が、あちゃあ、とおでこに手を当てる。
「俺、可愛い妹にそんなこと言われたら、三日くらい寝込むわ……」
「なるほど。そら先輩の中でそれがトラウマになって、ひなたちゃん中心に世界が回るようになっちゃったわけね」
「小さい頃の話なので、もう気にしないで欲しいんですけどね……」