ちよ先輩のてのひらの上。


恥ずかしさを誤魔化すように、トントン、とプリントの端を机に打ち付けた。


「……ちよ先輩が、ひなちゃんって呼ぶから……」

「えー、俺のせいなの?」

「小学生の頃のあだ名で呼ばれるの、久しぶりなんです。今までも、何度か言い間違えそうになって……懐かしくて、気が緩んじゃうのかも……」

「俺といると、気が緩むんだ?」


確認するような問いかけに、私ははい、と笑顔を浮かべた。

先輩の隣は、なぜだかとっても居心地がいい。

たくさんドキドキもさせられるけれど、……同時に、心がポカポカと温かくなる。

まるで橙色に染まった今の静かな生徒会室みたいに、心地よくて……。


「……ちよ先輩といると、安心します」


私は勢いに任せ、そう続けた。

勇気を振り絞ったものでも、一度口から出てしまった言葉は、あっけなく風にさらわれる。

< 92 / 225 >

この作品をシェア

pagetop