甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています
初めて彼女の話を聞いたのは半年ほど前、ドイツから帰国の目処が立ったと熊澤先生に電話で報告した時だった。
『若くして苦労してるんだけど、本当に気が利いて可愛くていい子なんだよ。息子がもう少し大きければ嫁に…、いや、俺がもっと若ければなぁ』
熊澤先生の発言に苦笑する。
確か先生の息子さんはまだ小学生だし、いくら先生が若かろうと亡くなった奥様一筋だというのは、彼を知る誰もが理解しているところだった。
先生とは頻繁にやり取りをしていたわけでもないのに、毎回話すたびに『遥ちゃん』と名前を出され、今日はこんなことがあったと話を聞かされれば、なんとなくどんな子なのかと気にはなる。
とはいえ会う機会もないのだからと思っていた所に、先生からとんでもないお願いをされた。
ドイツから帰国したのは4月末。
向こうにいた3年間は脇目もふらずに働いていたので、少しのんびりしようと5月の1ヶ月間を開けて、6月から元いた職場である一橋総合病院へ復帰する予定を組んだ。
それを知っていた熊澤先生に、急遽健康診断の代理を頼まれたのだ。
『インフルエンザになっちゃってさ。九条なら安心して任せられるから。頼むよ』
恩師である先生の頼みを断れるはずもなく引き受けると、彼は電話の向こうで『遥ちゃんもいる現場だから。何かあれば彼女に聞けばいい』と掠れた声で笑った。