甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています
「こっちの病院に戻るなら引っ越しもしようかしら。あまり遠いと何かと不便だし。悠のマンションはここから近くていいわよね」
再びこの病院で働けると疑いもしない彼女は、一方的に話し続ける。もちろん周りの耳目が自分に向いているのを確信しながら。
「悠のお母様って確か元看護師だけど結婚して退職されたのよね。悠は?結婚したら家庭に入っていてほしい?前はこの質問に答えてくれなかったじゃない」
5年前、告白をされた時点で結婚願望はないと告げ了承を得て付き合い始めたが、半年ほど経つとこの手の質問を何度もされた。
当時もうんざりしながら『悪いけど、結婚する気はないから』と答えを濁していたことを朧げながら思い出す。
彼女の思惑通りナースステーションやその周りでは、俺達が結婚間近なのではとコソコソ話す声が聞こえてくる。
そして、好奇心を我慢出来なくなった1人の看護師が口を挟んできた。
「佐々木先生、こちらの病院に戻ってこられるんですか?」
フロアの注目を集め満足そうにしている彼女は「まだ決まったわけじゃないんだけど。ねぇ、悠」と俺の腕に手を添え、ここでも何か含みのある言い方をする。
すると別の看護師が「私、噂で九条先生が結婚されるって話を聞いたんですけど」と、ストレートに尋ねてきた。