甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています
当時大学4年に進学するところだった私は、母に相談なく大学を中退した。
入院費や治療費は保険や医療制度などで賄えても、学費はやはり高い。まだ最後の年の学費の納入前だったので、迷わず決断した。
母1人子1人で生きてきた私にとって、母よりも大事なものはない。なるべく側にいたくて学校をやめ、短時間で稼げるバイト先を探した。
朝起きて簡単に家事を終えたらすぐに病院に行き、午後に5時間ほどバイトに出て、また病院に戻る。1日のほとんどを病院で過ごしていた。
そんな生活を10ヶ月ほど送ったのち、母はクリスマスケーキを一緒に食べた次の日に息を引き取った。
冬に差し掛かる頃には骨にも転移が見つかり、想像を絶する痛みで穏やかとは言えない入院生活になった。
お風呂の代わりに温かいタオルで拭いた身体は恐ろしいほど薄く、痛みに悶え苦しむ手を握った時には折れてしまうかと思うほど細かった。
壮絶な痛みに耐えて、最期は薬で眠っている間に穏やかに逝けた母を見て、悲しみとやりきれなさが襲う。
5年前に胃癌が見つかったのは、当時母が勤めていた会社で受けた健康診断のレントゲンのおかげだった。
手術を受け、元気になってからも半年に1度は健診を受けていたはずの母だが、私の学費を稼ぐのに忙しく、ここ1年ほど健診を受けていなかったらしい。
再発していたのに気付かず、症状もなかった為あっという間に進行してしまった。