甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています
九条先生が眉を寄せて黙り込んでしまったことに気が付かず、私は過去にバイトしたことのあるメイド喫茶についてさらに話して聞かせた。
「ネームプレートを胸に付けるんですけど、ああいうお店って防犯のためなのか本名じゃなくてニックネームみたいなのをつけなきゃいけなくて、それも恥ずかしかったんです。でも、なんとか頑張って」
「瀬尾さん」
隣を歩いていた九条先生が急に立ち止まり、グッと肘の辺りを掴まれる。
話の途中だったのに驚いて私も足を止めて先生を見上げると、どこか不機嫌そうな顔をしていて戸惑う。
あ…。自分の医師としてのお給料とメイド喫茶の薄給を一緒にされたくなかったかな。
私にとったら時給1700円って破格だったんだけど、先生にとったらそうでもないわけだし。
それなのに私ったらまた余計なことぺらぺらと。そりゃ優しい九条先生だって不機嫌にもなるよ。
「あの、九条先生」
「今は?」
私は慌てて謝ろうと口を開いたけど、先生の質問に遮られてしまった。
「え?」
「今も、その店で働いてるの?」
「いえ、母の入院中だけです」
「…そっか」