甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています
「…まだ怒ってるの?私のこと」
佐々木さんは綺麗な顔を歪めて先生を見つめる。
それだけで、過去にこの2人の間に何かあったのだと仄めかされた。
「いや、元々怒ってなんかない。もう過去のことだよ。それにお互い様だ」
「…そう。それにしては随分女の趣味が変わったのね。じゃあ、また」
明らかに私への嫌味と、『2度と会わない』と言った先生への挑発の言葉を残して、佐々木さんは去って行った。
彼女が立ち去った後も、その場には薔薇の甘い香水の香りが漂い、私の肌を刺す。
鉛を飲み込んだように胸が重たくて、ゆらゆらと視界が揺れる。
こんなことくらいで泣いてしまえば、やはり自分とは違い子供だと彼女に笑われてしまう。
「遥」
気遣うような先生の声音が辛くて、私はなんとか笑ってみせた。
「大丈夫です」
小さく首を左右に振って、明るい声を出したつもりだった。
それでも、私の気持ちなんて、きっと九条先生には見抜かれているんだろう。
「おいで」
そのまま連れて行かれたのは、ランチをとったオフィスビルの48階にあるバー『マグノリア』。