△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~



 澁澤はこの出版社からは初めてだったが、他の会社からは何作か本を出していた。虹雫は読みたくもなかったが、本屋で少し読んだが作風が全く違っていたのだ。自分でもわかるのだから、本のプロは絶対に気づくはずだと、虹雫は思っていたので、思わず問い詰めてしまう。
 必死になりすぎているのかもしれない。けれど、自分が苦しんで産み出した作品なのだから当たり前だろう。


 「………ごめんなさい」
 「一条さんも、気づいていらっしゃるのですよね?」
 

 視線を逸らしながら何故か謝罪をする一条を見て、確信した。彼女も、虹雫と同じように気づいていて、なかったことにしようとしているのだと。
 質問の返事があるまで、虹雫は震える手をテーブルの下で隠しながら、強く握りしめる。あまりの強さに肌が白くなり痛みさえ感じる。けれど、こうでもしないと、全身が震えてしまいそうだった。

 しばらくの沈黙。
 それを破ったのは一条だった。


 「………ここだけの話にして欲しいのだけれど。……美作さんの小説を読んですぐに、『夏は冬に会いたくなる』はあなたの作品だとわかりました。盗作だという話も本当なのではないか、そう思ってしまうほどにどちらも繊細で言葉選びが上品で気品を感じられたわ。きっと大人に好まれる文章ね。対して澁澤先生が『夏は冬に会いたくなる』を持ってきた時は、私もスタッフも驚いたの。あまりにも雰囲気も作風も変わったから。スランプになって苦労していたから、きっと必死になって作り上げたのだろう、ってスタッフで感嘆したものよ。でも、今考えてみればおかしな話ね。1年もしないで作風が変わるはずないのですから」
 「なら、どうして……っっ!」
 「『夏は冬に会いたくなる』は映画化も決まって今は撮影がスタートするところです。そして話題にもなっていて、この会社にとって大きなプロジェクトなんです。今そこで、本当は盗作でしたと知れたら、全てのプロジェクトは終わってしまいます。それは大きな痛手です。……あなたのデビューも約束出来なくなってしまうかもしれません」
 「…………」
 「美作さんには本当に申し訳ないと思っています。助けてあげられない、気づいているのに取り戻してあげられない。……すごく悔しいです。ですが、次の作品は絶対にヒットさせます。そして、『夏は冬に会いたくなる』以上に話題になると確信しているのです。……だから、盗作の事は我慢してくれませんか?どうか、お願いします」



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