△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~




 先程まで背筋がピンッとし凛とした雰囲気の一条だったが、今は何度も頭を下げ、眉も下がっており、とても副社長とは思えない威厳のなさだった。
 けれど、そんな彼女が虹雫に頭を下げて頼んでいる。それほどに、自分の実力を認めてくれているのはわかった。
 それは嬉しい。頭を下げてでも出版を望んでくれている。求められているのは幸せだと思う。



 けれど、虹雫の感情は嬉しさなど1欠片も感じられなかった。
 やはり、あれは自分のミスだから、浅はかな行動が招いた結果なのだろうか。


 もう「夏は冬に会いたくなる」は、自分のものではなくなってしまった。
 PCに向かい、泣きながら全ての物語を消去した時のように、虹雫の少しずつ晴れた心もまた大雨に降られ、また悲しみが支配していった。




 「………少し、考えさせてください」



 そう言って、その場から逃げる事しか虹雫には出来なかった。



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