△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~
「宮にも素直に謝ればいい。そして、物語を取り戻したい。そう伝えればいいんだよ。おまえの本当の気持ちを」
「…………」
「小説を取り戻して、小説家にもなる。全部叶えればいいさ」
「そんなの無理だよ」
「やろうとしたんだろ。諦めるのは早いっ!」
「いったッ!」
クヨクヨとしている虹雫に、剣杜は容赦なくそう言い放ち、デコピンをしてくる。虹雫に対する優しさはもう終わってしまったようだ。額がジンジンと痛む。それを両手で抑えながら、虹雫はジッと考え込む。
夢を叶えるために、夢を叶えるために作り上げたものを諦めようとしている。虹雫だけが夢を叶えられず、虹雫がつくったモノだけが夢を叶えている。
それを忘れるなんて、おかしな話なんだ。
そんな事はわかっていた。
けれど、怖かった過去から、また夢を叶えられなくなる現実から逃げようとしていた。
昔と同じように。忘れてしまう事で楽になろうとしていた。
「どうすればいいのか。まだ全然わからないけど、小説だけが夢を叶えているのは悔しい。小説も作家も、諦めたくない」
やっと心から出た言葉。迷うことなくすらすらと口から吐き出せる。
ずっと自分が思っていた事なのだと、虹雫はその時に改めて気づく事が出来た。
その言葉を聞いた剣杜は、「おっそいわ」と、また虹雫の額に手を伸ばしたので虹雫はすぐに自分の手でデコピンを回避しようとすると、今度は両頬を思いっきりいっぱられた。
ふざけた行動だが、自然と笑みが零れる。
さっきまで迷い泣いていた自分が嘘のようだった。剣杜には感謝してもしきれない。
この気持ちを、宮にも伝えなければ。
その前に、自分でやれる事をしよう。虹雫は、そう心に決めたのだった。