△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~
ドンドンッ!!
寄りかかっていた玄関の扉が突然叩かれた。
虹雫はあまりの事に驚き、体が跳ねた。
こんな夜遅くに誰が訪ねてくる。しかも、チャイムではなく激しいノックで来訪を告げている。
あの男がここまで来たのだろう。虹雫はそう直観し、靴を履いたまま部屋の方へ後ずさりする。
手から零れ落ちた写真が散乱する玄関。虹雫は耳を塞いで何とかやり過ごそうとした。ここを耐えればあの男は去っていくはずだ、と。
「虹雫ッ!いるのか?」
「………ぁ………」
だが、聞こえてきた声を聞いて虹雫は更に驚くことになる。その声はあの澁澤という作家のものではない。
しばらく会えていなかった幼馴染の宮だった。
どうして?何故、この場所にいるの?去っていったはずの宮。自分に対して怒っていたはずの彼が、何故いまこのタイミングで来てくれるのかはわからない。
けれど、虹雫は限界だった。
この状況を1人で乗り切れるほど強くはなかった。
恐怖から逃げるように、虹雫はよろよろと立ち上がり玄関の扉を開けた。
そこには急いでここまで来たのか、少し汗ばみ髪が乱れている宮の姿があった。突然ドアが開き、泣きはらした虹雫の顔を見た彼は驚いた表情をしていた。が、それに構う事もできず虹雫は宮の胸に飛び込んだ。
「虹雫、大丈夫…………ではないみたいだな………」
「宮、………みやぁ………」
「うん。俺だよ……」
優しい声と彼の鼓動と匂い。それを感じただけで、少しずつ落ち着いてくる。
あぁ、やはり自分には彼が必要だ。本当に大切で、大事で、大好きなのだ。
虹雫の体を抱きしめてくれる腕の感触を味わいながら、虹雫はそう思った。
そして、嗚咽交じりだったが、彼の名前以外にやっと声を発することが出来た。
「宮、助けて………」
ずっとずっと言えなかった言葉。
忘れてしまいたかった事件と宮への気持ち。夢への渇望。
全てがこの言葉に託されていた。
虹雫がその言葉を彼にやっとの事で伝えた時、宮は息を飲み込んだ。
そして、強く強く虹雫を抱きしめると、深い深い声で「あぁ。俺が虹雫を助けるよ」と、体の中に響き沈む言葉をくれた。それと共に虹雫は安心し、やっとの事で声を出して泣き瞼を閉じることが出来たのだった。