△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~



 そういうと、蜥蜴はポンポンっと虹雫の頭を撫で、そのまますれ違い去っていこうとする。
 この人は、闇の世界で生きる怖い人なのかもしれない。
 契約だから、宮の手伝いをして自分を助けてくれたのだ。それはよくわかっている。
 だけれど、目の前の彼は怖いとも思えない。最後に人を喜ばせるために動いてくれる人なのだから。
 そう思うと、虹雫の口は自然と動いていた。


 「蜥蜴さん、私の物語を助けてくれて、ありがとうございましたッ!!」
 

 夜中にしては大きな声だったかもしれない。
 けれど、蜥蜴を飛び止めるには必要な音量だった。
 すると、蜥蜴はピタッ動きを止めてからくるりとこちらの方を向いた。


 「……好きな人なんて一生出来ないと思ってたけど、相思相愛の恋人っていいなって思えたよ……」
 「え?ごめんなさい、うまく聞こえないです」


 小さく唇が動いており、蜥蜴が何かを言っているのがわかるが、その声は虹雫の耳までは届かなかった。
 虹雫が聞き返すと、蜥蜴はニッコリと笑って今度は虹雫と同じぐらい大きな声で返事をした。


 「部屋のドアの前に置いてあるの、宮さんに渡しておいてー!お金貰いすぎちゃったから返すって!」
 「え、お金?」


 虹雫がすぐに無造作に置いてあった紙袋の中を見ると、そこには札束が3つほど入っていた。総額300万。虹雫は見た事もない大金に悲鳴を上げそうになる。


 「蜥蜴さん、これッ!………あ、あれ?」


 振り返ると、そこには蜥蜴の姿はなくなっていた。
 

 「やっぱり不思議な人だな」


 突然現れて、忽然と消える。神出鬼没とはこういう事を言うのだろうな、と虹雫は思った。
 彼がいなければ、きっと宮は一人で澁澤と対峙する事になっていたのだろう。もしかしたら、違った世界になっていた可能性がある。それを考えると、蜥蜴の存在は大きいはずだ。
 虹雫はもうすでにいなくなった蜥蜴に向けて、深くお辞儀をした後に紙袋を大切に抱きしめて、その場から駆け出した。

 目的地はもちろん宮の家だ。
 虹雫は、彼に会える事を迷いもなく信じて、急いで部屋へと向かったのだった。



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