△は秘密色、○は恋色。~2人の幼馴染みを愛し、愛されてます~
広告で見た、有名な小説。タイトルだけなら知っているし、作家の名前も知っていた。だから、買ってみようと思った。が、何故か虹雫はそれを見つめて泣きそうになっていた。
「……面白くないよ。私は、好きじゃない」
「え……」
「え、あ、ごめん。人気はあるから、剣杜は好きかもしれないけど、私はダメなの。ほら、好き嫌いがあるから」
虹雫が本を嫌いというのは珍しかった。「苦手」ぐらいの表現はあるが、激しく拒絶していたのだ。瞳が潤み、そして顔をしかめるほどに。
「そうか。じゃあ、やめておく。おまえがそんなに言うならきっと俺にも合わない」
「……」
「じゃあ、おまえのだけ買ってくるから、待ってろよ」
「………ごめんね。ありがとう、剣杜」
剣杜は急いでレジまで向かった。が、途中で1度だけ後ろを振り返った。
虹雫はフラフラとまた新刊コーナーに近づき、あの本を見つめていた。後ろ姿の虹雫しか見えず、表情はわからない。
けれど、震えるほどに両手を握りしめていた手は真っ白だった。
レジを終えた後、近くの自販機でミネラルウォーターを購入し、虹雫の元へと戻った。すると、こちらを向いてニコやかに手を振る虹雫がいた。
「剣杜、こっちー」
「虹雫っ、大丈夫なのか?」
「うん。貧血だったのかな。ごめんね、心配かけてしまって。これ、本のお金」
「いらないって。俺、売れてますから。あと、これ水」
「……ありがとう。じゃあ、本も水もいただきます。……剣杜が一緒にいてくれて、よかった」
「は?何だよそれ……」
「…………結構ふらふらしちゃってたから。誰かといるときでよかったなって」
「今日は俺のうちで宅のみ決定。そのまま2人は泊まってけ」
「いいの?やったー!剣杜のうちのお酒おいしんだよね」
「おまえは、酒はダメ。また、倒れるぞ」
「えぇ……大丈夫なのに」