待ち人、音信なし
何故ハンカチ。
それを見ていると、ポタと雫が落ちた。
雨は止んだはずなのに。
それが自分の涙だと気付いて、ハンカチで目元を覆う。
「な、泣いてません!」
「ああ、そうかよ」
興味なさげに言い放ち、ノアさんはビルに入っていく。
ガチャン、と扉が無造作に閉まった。
顔を上げる。グレーのハンカチに、黒く沁みが出来ていた。
……なんで傘は持ってないのに、ハンカチは持ってるの。
午後の外回り中、ノアさんは眠そうにしていただけで、何も言ってこなかった。
「晴れましたね」
「そうだな」
「良かったですね、傘持ってこなくて」
「天気予報見ろよ」