待ち人、音信なし
水の国と呼ばれたこの国の真ん中には、大きな泉がある。
終戦から三年。
毎年、この日の夜は死者を想って泉に花を浮かべる。
いくつかの河川に別れ、花は流れていく。
明日の朝には花が跡形も無くなっていることから、死者への鎮魂とされた。
死者への儀式は、生者の為にある。
「気をつけてね。あ、ノアも行くの?」
所長の言葉にノアさんの方を向く。
「……行きます」
「そうかい。君も気をつけてね」
「はい」
ノアさんも知人を戦争で亡くしたらしい。
「帰らないのか?」
「帰ります。お先に失礼します」
部署を出た。