待ち人、音信なし
ノアさんはそれを受け取った。返されなくて良かったと安堵する。
目的の半分は果たせた。
「ありがとう」
「……ノアさんが感謝の言葉を」
「傘は?」
その問いに、折りたたみ傘を忘れたことを思い出した。私がここで買うべきは、ノアさんへのお見舞いではなく傘だったのでは。
地面のタイルを叩きつける雨粒。
弱まるところを知らないそれを見上げ、諦める。
「走ったら近い」
「え」
鞄を取られ、手首を掴まれた。
そして、雨の中を。
走る。