【しょくざい】第1話【最後の晩餐】
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「何年くらいここにいるんですか?」
「私はだいたい3年くらいになります」
「いつまでいるんですか?」
「そうですね、どうなんですかね、わからないです、いつかは終わるのかも知れませんでも正直新しい魂になりたくはないです」
 女は設楽の顔をじっと見ていた。今から次の場所に行く者を怖がらせてしまったのだろうか。
「私もまた新しい人生なんてやりたくないかも、例えばあなたはもし記憶をそのまま、また同じ人生をそのままやり直せるとしたらやり直したいと思いますか?」
「同じ人生ですか、それなら戻れるなら戻って見てもいいかも知れませんね、勉強してもっといい大学とか行ったら人生変わってたかも知れませんね」
「そうですか、私は子供の頃から人生やり直したいと思ったこと無いんです、だって楽しい事の倍辛いことも体験した訳でそれをもう一度なんてやりたくないです」
「楽しいことももう一度できるじゃないですか」
「2回目なんてもう感動しないですよ」
 設楽はこの女はネガティブな人だなと思った。自殺するのも理解が出来る。
「人生なんてもうやりたくないです、人間以外にもなれるんですか?」
「どうでしょう、分かりませんがでも記憶は無くなるんでそんな考えなくても大丈夫だと思いますよ」
 励ましたいのだがいい言葉が出て来ない。不安を煽って店に立てこもられる事は避けたい。
「そう、消えるのね、なら安心」
「あ、はい、まあ実質そうなる事になりますね」言葉が詰まった。女は安堵した表情をした。だがそれもつかの間女は眉間にシワを寄せた。
「じゃあ、ここはなんのために存在するの?」
「そうですね、私もここに来た当初はずっと考えた時期もありました、でも多分そんな深い意味は無いと思います、表向きの理由としては自殺者に些細な幸せをとしてますが、実際はただ神とやらの遊び心何じゃないかと今は思ってます」
「まるでオモチャですね、私たちは、でも、それでも、今私は些細な幸せは味わえました、生きてる頃は怒りと不安でめちゃくちゃでしたが、今はだいぶ楽になりました」
「ほんとですか、良かったです、ありがたいです、地獄人冥利に尽きますよ、いや何か変だな、料理人冥利ですかね」
 女は少し笑っていた。今度は作り笑いではない気がする。そして女のマンゴーアイスはもう食べ尽くされていた。残った欠片は少し溶けて黄色い液体になっていた。残る黄金の果実もあと一切れになる。
「これ本当に美味しいです、こういうのはどこから持ってくるんですか?」
「んん、それが私にも分からないんですよ、毎日どんどん仕入れてくるんです、自殺したマンゴーですかね?」
 また彼女は笑った。声に出すほどではないがクスクスと彼女は笑っていた。
 仕入れは役人の鬼が毎回この店に運んでくる、もしかしたら他の店にも運んでいるのかもしれない。
 店の外には何があるのかとか神がどういうものとかここは何者なのかは考えることはしないことにしている。宇宙の果てと同じようにどんな偉い学者でも正解は分からないのだ。だから今起きている確かな事象を一つ一つ運んでいくのだ。何も考えなくて済むように。
 「美味しかったです」女は最後の一欠片を口にしてそう答えた。
「そうですか、成仏出来そうですか?」
「もう覚悟はしてきたんで大丈夫です、それより厨房戻らなくても大丈夫なんですか?」
「まあ、今は空いてる方なんで大丈夫だと思います、すぐ戻りますし」
 設楽は彼女に大丈夫とは言ったが、厨房の方を振り返ると大丈夫そうでは無かった。少し話し込み過ぎたようだ。それでももう終わる。普段多めに仕事してる分たまには構わないだろう。
「また死ぬと思うとやっぱり少し怖いものですね、今度は苦しくないといいな」
「たぶん、安らかなものだと思いますよ」
「そうであって欲しいです」
 女は空になった水の入っていたグラスを持ちそれを手首で回す。僅かに残る水滴が同じ方向につられて回る。それをじっと見つめる。
「ご馳走様です、あの、この後はどうすれば」
「この後はこの店でして頂くことはもうありません、次の場所に向かうだけです」
 女は1度唾を飲み込み、立ち上がった。
「分かりました、ありがとうございます、ご馳走様でした」
 設楽の方に頭を下げ扉の方に向かった。設楽も後ろからついて女を追い抜き店の扉を開けた。
「お気をつけて」
「はい」
 最後にまた女は設楽にむけ頭を下げた。店の外には案内役の鬼が待っている。彼女はこの後どうなるのだろうか設楽には分からない。輪廻転生を繰り返すのだろうか。いつか幸せになる事は出来るだろうか。分からない。設楽はまず自分の罪を償わなければならないのだから。
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