【短】春、二人だけの思い出を
おもむろに外山くんがカバンを開いたとき、さっき私が渡した進路希望調査のプリントがひらりと落ちた。
「ねえ、三井さんは進路どうするの?」
拾いながら外山くんが聞く。
「私は県立大を受けることにした。偏差値も学科もちょうどいいなって。外山くんは?」
「僕は通信制大学に入るつもり」
「そっか」
春からは別々の道。3月の卒業まであと半年。
考えないようにしていたけど、嫌でも意識してしまう。
途端に胸の奥がチクリとした。
「こうやって話すのもあと少しだね」
なるべく不自然にならないように、ぎこちない笑顔を作る。
「…」
けれど、外山くんは床をじっと見つめたまま何も言わなくなってしまう。
「外山くん…?」