皎天よりあの子は遥か


委員会は入ってないけど、吹奏楽部で、トラン ペットの手入れをしょっちゅう席でしていたところを見たことがある。

厚めに揃えられた前髪ときっちり分けられたふたつ結びの、垢抜けない地味めな容姿。よく一緒にいたふたりの友達は部活が一緒なのか、おしゃれに目覚めはじめたばかり、みたいな感じの子だった。


そんな目立たない存在である花村さんが「もうすぐ子供が生まれるから」と学校をやめたのは、学校のみんなにとって青天の霹靂だったんだろう。


仲が良かったはずの子たちも今日は愚痴のように彼女の話をしていた。「部活突然辞めたときも迷惑だったけど」「彼氏いるなんて聞いたことないけど相手誰なんだろうね」「うわさによるとエンコーだったっぽいよ」「え、汚っ」「あんな地味だったのにね」「ねー!」って。

自分たちの都合や持ってる知識だけで他人を見るのはやめたほうがいい。



「…自分で決めたことなら、べつに良いんじゃないって思うよ。何も知らないから下手なことは言えないけど、本来子供を産むっておめでたいことだろうし」


1か月半も前のことをまだぐちぐちと話しているひとたちのこと、気色わるいって感情のほうが勝ってるけど。



そう付け足すと優等生で人気者で病気を持っているらしいクラスメイトは、ふわっとうれしそうに微笑った。


「やっぱり、美宵ちゃんは、そういうひとだよね」


そういうひとってなに...。でも今度は嫌味ったらしい感じじゃないからいっか。

きっと蒼井今日子もみよと同じようなことを思っているのかもしれない。どうでもいいじゃんって。本人が決めたことなら、なんだってって。


放っとけよって。


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