皎天よりあの子は遥か
「死ぬ病気だって言ったら?」
答えるの、遅いよね。
「聞いといてわるいけど、どうもしない。どうでもいい」
「それはうそ。どうでもいいとは思ってるだろうけど、どうも思ってないことはないでしょ、生きてる人間なんだから」
「…またそれ」
また、嫌味っぽい。そう言ったら答えるだろうって思われてるのかもしれないと口を閉ざすを軽やかな笑い声がした。バカにされてるのかも。
「“死ねるなんてうらやましい”」
「…は?」
「私は、誰かと言い合いしたり身体を重ねたりできる美宵ちゃんのこと“うらやましい”よ」
「……」
みよのそれと、蒼井さんのそれはきっと違う。
違うというか同じ括りにはできない。しちゃいけない、と思う。悪いことはたくさんしてきたけど、それくらいわかるよ。
もやもやする。病気で死ぬひとのことをうらやましいと思うような人間に思われてることが、こわかった。不良だとか問題児だと煙たがれるより、ずっと。
「美宵ちゃんは、好きなひととかいないの?」
脈略はない。目も合わない。
「べつにいない」
「そうなんだ。私もいない」
「意外だね。クラスメイトは?」
「あ、好きだよ、もちろん」
恋愛の話だったのかな。どちらにしろ、みよにはそんなひといないけど。
「じゃあいつか、好きだなってひととセックスできたらいいね」
模範解答みたいだなと思った。好きなひとと、なんて、みよは考えたこともなかった。
彼女にとってのそれは、好きなひととするものなんだ。
「喧嘩もさ、しょうがないなあってゆるしてくれる子とできたらいいね」
喧嘩したら仲直りできることが当たり前なんだ。そういうふうに、懸命に、生きることと対峙してきたひとなんだ。