皎天よりあの子は遥か
─── どこまでも違う。
だけど、違うままでいたくない。
「蒼井さん、あの……、…っ」
何を言おうとしたかわからない。だけど合わない視線をこっちに向かせようと呼びかけると、別の誰かとぶつかった。
「あ、すみませ…」
「すみません!…って、あれ、天野さん?あ、今日子ちゃんも一緒にいる。めずらしい組み合わせだね」
「え…花村さん…?」
びっくりした。学校中のうわさの的が、急に目の前に現れるんだもん。
「ぶつかってごめんね」
「いや……あ、お、おなか、平気!?」
慌てて屈んで彼女のおなかを見ると、ぺったんこ。
「美宵ちゃん。はるかちゃんのあかちゃんならもう生まれたんだよ」
「…へ?」
うそでしょ。学校やめたの1か月半前で、もう産んで、いまここにいるってどういうこと。
「おなかはあまり膨らまなかったの。それでいて早産だったの。…あ、これ見て」
携帯を開きながらぐっと近づいてくる。慣れない距離に不安になって思わず蒼井さんを見ると、のんきな笑顔でただ浮かべてる。
いったいなんなの…今日は厄日なのかな。どうせ死ぬ予定だったからいいんだけど。
「わたしのあかちゃん。ゆういっていうの。優しく生きるって書いてゆうい」
名前も、しわくちゃで真っ赤な顔も、性別がわかりづらい。どっちでもいいやって思った。
写真や動画を何枚も見せられておなかいっぱいになる。わんわん泣いたり寝てるだけなのに、小さいその存在をいとおしそうに見つめる瞳は、学校にいたころの花村さんじゃないみたいだった。
大人びた横顔。死にたいとか悪いことしたいとか誰も自分を見てくれないとか、そんなこと、この子は絶対に考えないんだろう。