皎天よりあの子は遥か
そういう場合はどうしたらいいの。蒼井さんにはそれがわかるの?
「楽しいことやうれしいことを探そうとするからくるしくなるんだよ」
かあっと顔が熱くなった。
ああそうだなって、思ってしまったからだ。
「そりゃ探すでしょ…蒼井さんは、違うの?」
「違うよ。私は探してなんかない。…病室にいるしかなかったあの頃にはできなかった楽しかったことやうれしいことを、作ってはいるけどね」
違う。
概念が、気力が、何もかもが。
生きたいと願っているひとを、目の当たりにした。初めてだった。
「美宵ちゃん、明日も学校に来てね」
蒼井今日子はいつも教室でしているような笑顔でそう言った。
ぐ、と息を飲んで、踵を返す。
今日死ぬのに行くわけないでしょ。明日なんて要らない。生きたって意味がない。本当は悪いこともしたくない。ふつうに生きたかった。ふつうに生まれたかった。ふつうに誰かと、笑い合ってみたかったの。
どれくらい歩いただろう。そっと振り向くと、蒼井さんはまだそこに立ってみよを見ていた。
みよはぜんぜん歩いてなかったらしい。近くにいる。生きている。
帰れないよって訴える双眸に、振り向いたことを後悔した。どうして振り向いたんだろう。
本当に、
本当に死ぬつもりだった。
ほんとうだよ。
だからこそ彼女の言葉が、心をえぐるように突き刺さったんだ。
「────… わかったよ」
投げやりの口調でそうつぶやくと、彼女は得意の笑顔を残して改札を通ることなくどこかに行ってしまった。
駅使わないのかよ。