皎天よりあの子は遥か
邪魔なもの。望んでいなかったもの。消えてくれないもの。そういうものしかみよにはない。
職員室に入ると、生徒たちよりも鋭いような、はたまた怯えるような視線が送られて肩身が狭いような気持ちになった。
気弱で上から押さえつけるわりに自分より高い立場の人間には尻込みする大人たちへの反抗心だけでこの場に来たつもりだった。
それなのに隣の優等生は柔らかい空気を放ち、先生たちに「失礼します」「お疲れさまです」と声をかけていく。
天使や女神のようなその態度はなんだか無性に腹が立った。
担任の音楽教師、村上先生の席まで行くと「めずらしい組み合わせ」と端正な顔でつぶやく。わるかったね。みよが呼び出したわけじゃないけど、きっとみんなそう思ってるんだろう。
「課題」と付き出すとその場で目を通された。
1か月半前補導されて、退学にも停学にもならなかったことが不満で学校をサボっていたら夜の繁華街に持ってこられたそれ。
一応やった。村上先生と同期らしい先生が担当している数学しかなかったからきっとこのひと独断の課題。やっても成績には関係しないんだと思う。
「このあたりの問題が空欄だけどどうしたの」
「…そのへん、授業出てない」
授業出てないみよがわるいんだけど、なんとなくふてぶてしい言いかたになってしまった。
「じゃあ蒼井さん、天野さんの勉強見てあげてくれる?」
「っ、は?」