皎天よりあの子は遥か
なんつーこと思いついてくれてるの。妙に掴みどころのない、他の教師とは空気が違うようなこの担任はこういう突拍子もないことを言うから大の苦手だ。
「わかりました。天野さん、今日の放課後空いてるかな。ちょうど私は塾がないの」
いやいや、勝手に話をすすめないでほしい。なんで放課後まで勉強しないとならないの。しかもこの女と。
「みよは予定があるから無理」
「じゃあいつなら平気?明日はどうかな」
「いつでも無理だから」
「でも天野さん、昨日の夜はいつもの不良仲間たちとけんかしてなかった?」
…なんで知ってるんだよこの男。なんてことないような表情で言うからこわい。
じろりと見れば「パトロールしててね」と、音楽教師のくせにしょぼくれた警察官みたいな役割を担っているらしい。
確かに喧嘩して、行き場はない。すべてを見透かされたような感じに舌打ちしたいような気持ちになる。
「時間があるなら見てもらいなさい。課題の提出期限は今日までだよ」
「……」
「天野さん、大丈夫だよ。私、勉強だけはできるんだから」
わかりきったことを誇らしげに笑う蒼井今日子にため息をつく。これは何を言っても受け入れてもらえなそうだ。
「…今日だけ、よろしく」
「うん。よろしくね」
なんでこんなことに。めんどくさい。嫌いな場所で、誰とも関わりたくないのに。
学校なんて来なければよかった。提出期限なんて無視すればよかった。課題なんてやらなきゃよかった。そんな後悔だけがぐるぐると渦巻いていた。