皎天よりあの子は遥か
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いつも帰りのホームルームまでには教室を出ていることが多いから、放課後の静かな教室はみよにとってめずらしい空間だった。
蒼井さんがクラスメイトたちからの遊びや勉強会の誘いをみよのために断っている光景を何度か目にして、頼んでもないのに…と居心地のわるさを感じていたけど、騒がしくない古びた教室は、良いかも、とちょっと思ってしまった。
蒼井さんはわざわざ自分の席から椅子を持ってきてみよの席に向かって置いた。
「隣の席とか使えばいいのに」
「だって隣は、はるかちゃんの席だから」
今日の…いや、あの雰囲気じゃここ1か月半の間うわさの的だったんだろう花村はるか。彼女はみよがちょうど補導された日に学校を自主退学したらしい。
「でも、もう学校にはいないんでしょ」
それなら使ったって問題ないし、いたとしても使ってない間は借りたっていいと思う。真面目なのか、こだわり が強いのか。しかも変なやつ。
「学校にはもういないけど、はるかちゃんは生きてるから」
「......変な考えかただね」
花村さんは隣の席だったけどあまり話したことはない。控えめな性格で特に目立つような存在でもなく、隣の席じゃなければ顔も名前も覚えてないようなふつうの女の子だった。
ただどことなく雰囲気は蒼井さんに似ていたかも。性格や顔立ちは違うけど、控えめなのに「おはよう」「ばいばい」 とみよをこわがる様子もなくただ隣の席の人間として扱ってくるようなところが、似ていた気がする。