皎天よりあの子は遥か
きっと蒼井さんは花村さんのうわさをしない、彼女がわるいことをしたとは思っていない。
「仲良かったっけ?」
「特別仲が良かったわけじゃないかなあ。ふたりで遊んだこともないし。でもはるかちゃん、周りをよく見れる優しい子だったから話す機会はたくさんあったよ」
「…ふうん」
まあ、ふたりの仲なんてどうでもいいけど。
蒼井さんは落書きも汚れもない教科書と、黒板をただ写したわけではなさそうなノートを開きながら課題の問題 文に目を通す。
そして的確に要点だけをみよに伝えてくる。まったく知らなかった問題の解き方を頭が理解していく感覚に、どうしてか心臓が高鳴った。
「数分でわかった……蒼井さん、教えるの上手いね」
「ほんとう?天野さんにほめてもらえるなんてうれしいなあ」
人のことをほめ慣れないこっちとしては、そう素直に受け止められるとわるい気がしない。
「でも天野さんだって勉強できるほうでしょう。あまり学校来ないわりに順位高いもん。私が家庭教師したら私より頭良くなるんじゃないかなあ」
「1位ってこと?ないない。ありえないよ。勉強好きじゃないし」
「生きてたらありえないことなんてないと思うけどなあ」
それは、きれいごとだ。
真面目にしっかり生きているひとに敵うわけない。
それに。
「生きてたらねえ…じゃあ、みよは明日死ぬから、やっぱりありえないことだよ」
さて、優等生はどう答えてくれるかな。そんなふうに彼女を見つめれば、黒く深い瞳がこっちを向く。
喧嘩したことないって、そりゃそうだろうって思うくらい売る気も起きないような綺麗な艶玉だった。