皎天よりあの子は遥か
天野美宵は今日で終わり。死にかただって決めてある。大嫌いな家で死ぬの。いつもなら行き場なんてないけど今日は帰ろうと思っていた。
「天野さんって自分のことみよって呼ぶんだね」
「…は……」
「可愛い。名前、美宵ちゃんだもんね」
「っ、か、関係ないでしょ…!?」
みよは今、子供の駄々みたいなことを言って、だけど本気で死んでもいいってことを、なんてことないように言ってみせたはずだった。
ついに優等生の笑顔が崩れるかもって期待してた。バカにしてやるつもりだった。
それなのに彼女は話しの脈略なんてお構いなし。自分で聞いてきたくせに、なんなの。
「あ、ごめん。時間だからちょっと薬飲むね」
…は?
どうでもいい、と思ってしまいたいのに、何種類もの薬を淡々と準備して水筒の中身とともに体内に流し込む姿 を見て、どう反応したら良いのかわからなくなる。
いや、どうでもいいでしょ、こんなの。友達でもなんでもないただのクラスメイトが、なんなのか、なんて。
もちろん薬物じゃないだろう。じゃあなに。
「…なに、蒼井さんって病気なの」
「うん。小さいころから」
「......あっそう」
「あ、今、やばいって思った?べつに大丈夫だよ。だけど美宵ちゃんしか知らないから、内緒にしてね」
なんで名前で呼ぶんだとか、なんでそんなけろっとした顔で話せるのかとか、言いたいことはいっぱいある。急にやめてほしい。