イザベル・アルザス公爵令嬢の誤算 〜婚約破棄を狙ったら婚約者の性癖が開花した〜
「イザベルが睨んでくるのは楽しかったな。私は生徒会長として、後輩を気にかけていただけなのに、勘違いする方が悪い。イザベルを悪役にしようとした女子生徒は、しばらくの間静かになるだろう」
「……本当に悪趣味ですね。ブリアンナ嬢を婚約者にされるのでしたら、わたくしからも持参金を付けて差し上げるのに」
幼い頃からアデルバードに憧れているブリアンナなら、彼の特殊な性癖を丸ごと受け入れて思う存分罵ってくれるだろう。熨斗をつけて婚約者の座を譲りたいくらいだ。
性癖うんぬんもあるとしても彼の本当の目的は、イザベルの悪評を流し悪役令嬢に仕立て上げようとするブリアンナと取り巻き達への牽制。
王太子権限で王家の諜報員を動かして、イザベルの悪評と他生徒への嫌がらせの証拠を集めているのは、アルザス公爵家の情報網で掴んでいた。
分かっていても素直に感謝の言葉を口に出せない。
「婚約解消を期待していたのか? 冷たいな」
芝居がかった仕草で軽く首を横に振り、俯いたアデルバードは悲しそうに目蓋を伏せた。
「でも……冷たいイザベルが好きなんだ」
ゆっくりと顔を上げ、ソファーから立ち上がったアデルバードの瞳は仄暗い光を宿していた。
ローテーブルを乗り越えて近付くアデルバードと目が合い、イザベルの背中がゾワリと泡立つ。
ぎしり、軋み音で我に返ったイザベルは、ソファーの背凭れに手をつき腰を折ったアデルバードの腕の中へと、閉じ込められていた。
逃げたくてもソファーに座っているため逃げ場がない。
焦る心を見透かされたくなくて彼を睨んだ。
毛を逆立てる猫のように威嚇するイザベルを見下ろし、目を細めて笑ったアデルバードは熱を持つ赤い頬へ手を添えた。
更に近くなる二人の距離と、膝に触れるアデルバードの股間部。
「ちょっ、触らないでくださる?」
自己主張する股間の状態を知り、高まる貞操の危機に追い詰められて考えるよりも早く防衛本能が働く。
アデルバードが口を開いた瞬間、イザベルは右足で彼の無防備な脛を蹴っていた。
「ぐっ!」
痛みで呻いた後、「あぅ」と小さく声を漏らした彼は苦しげな息を吐く。
脱力したアデルバードは頬を赤く染めた恍惚の表情となり、まさかという思いからイザベルは濡れた彼の股間部を見て……後悔した。
悲鳴を上げそうになるのを堪え引きつった顔を上げれば、頬と目元を赤く染めた変態と目が合う。
(あああー!! またやっちゃったー!!)
またもや性癖を刺激して昇天させるお手伝いをしてしまったのだ。
気持ち悪さのあまり、我慢できなかったとはいえ自分が嫌になり、イザベルは片手で顔を覆う。
「愛しているよ」
身を屈めて抱き付くアデルバードの濡れた股間が膝に触れ、嫌悪感からイザベルの瞳に涙の膜が張っていく。
「私を想って泣くイザベルも……ああ、泣き顔も可愛い」
顔を近付けてくるアデルバードの頬と胸に手を当てて、これ以上近付かないように必死で押さえる。
「想っていない! この変態っ!」
罵ってもご褒美にしかならないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
「気持ち悪いから着替えてください」
「抱きしめさせてくれるなら着替える」
「はぁ!?」
よく分からないやり取りの後、呼び鈴を鳴らしたアデルバードは侍従が用意したズボンと下履きに着替えた。
主の状態を見ても顔色一つ変えなかった侍従は、慣れているのか淡々と職務を全うしているだけなのか。イザベルは尊敬の眼差しを彼に向けた。
新しく淹れて貰った紅茶を一口飲んで、イザベルは気持ちを落ち着かせる。
「イザベル」
イザベルの隣に座ったアデルバードは、イザベルの肩を抱き寄せて彼女の耳元へ唇を近付けた。
「婚約解消は出来ないと、そろそろ諦めろ」
「嫌です。変態と結婚なんかしないわ」
「私をこんな体にしたのはイザベルだろう」
「くっ、語弊を招く言い方をしないでください」
約束だからと開いた膝の間に座らされたイザベルは、腰に当たるモノが何なのか考えないようにして下腹部を撫でる手を押さえた。
卒業式まで、あと半年を切った。
卒業式までに婚約の解消、もしくは疵物になってもいいから婚約を破棄してもらわないとこの変態と結婚させられてしまう。
王太子妃になるのは嫌ではないし王太子としてのアデルバードは嫌いではない。だが、毎日彼の性癖に付き合っていたら確実に精神を病む。
完全に逃げられなくなる前に、アデルバードの心を射止めるヒロインが現れてくれるのを願い、イザベルは天井を仰いだ。
✱✱✱
これにて性癖開花編+オマケの話は完結となります。
王子様の性癖を刺激するため、当て馬?にされたブリアンナや謹慎中のミネットも絡んだ話も考えているので、時々話を追加するかもしれません。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「……本当に悪趣味ですね。ブリアンナ嬢を婚約者にされるのでしたら、わたくしからも持参金を付けて差し上げるのに」
幼い頃からアデルバードに憧れているブリアンナなら、彼の特殊な性癖を丸ごと受け入れて思う存分罵ってくれるだろう。熨斗をつけて婚約者の座を譲りたいくらいだ。
性癖うんぬんもあるとしても彼の本当の目的は、イザベルの悪評を流し悪役令嬢に仕立て上げようとするブリアンナと取り巻き達への牽制。
王太子権限で王家の諜報員を動かして、イザベルの悪評と他生徒への嫌がらせの証拠を集めているのは、アルザス公爵家の情報網で掴んでいた。
分かっていても素直に感謝の言葉を口に出せない。
「婚約解消を期待していたのか? 冷たいな」
芝居がかった仕草で軽く首を横に振り、俯いたアデルバードは悲しそうに目蓋を伏せた。
「でも……冷たいイザベルが好きなんだ」
ゆっくりと顔を上げ、ソファーから立ち上がったアデルバードの瞳は仄暗い光を宿していた。
ローテーブルを乗り越えて近付くアデルバードと目が合い、イザベルの背中がゾワリと泡立つ。
ぎしり、軋み音で我に返ったイザベルは、ソファーの背凭れに手をつき腰を折ったアデルバードの腕の中へと、閉じ込められていた。
逃げたくてもソファーに座っているため逃げ場がない。
焦る心を見透かされたくなくて彼を睨んだ。
毛を逆立てる猫のように威嚇するイザベルを見下ろし、目を細めて笑ったアデルバードは熱を持つ赤い頬へ手を添えた。
更に近くなる二人の距離と、膝に触れるアデルバードの股間部。
「ちょっ、触らないでくださる?」
自己主張する股間の状態を知り、高まる貞操の危機に追い詰められて考えるよりも早く防衛本能が働く。
アデルバードが口を開いた瞬間、イザベルは右足で彼の無防備な脛を蹴っていた。
「ぐっ!」
痛みで呻いた後、「あぅ」と小さく声を漏らした彼は苦しげな息を吐く。
脱力したアデルバードは頬を赤く染めた恍惚の表情となり、まさかという思いからイザベルは濡れた彼の股間部を見て……後悔した。
悲鳴を上げそうになるのを堪え引きつった顔を上げれば、頬と目元を赤く染めた変態と目が合う。
(あああー!! またやっちゃったー!!)
またもや性癖を刺激して昇天させるお手伝いをしてしまったのだ。
気持ち悪さのあまり、我慢できなかったとはいえ自分が嫌になり、イザベルは片手で顔を覆う。
「愛しているよ」
身を屈めて抱き付くアデルバードの濡れた股間が膝に触れ、嫌悪感からイザベルの瞳に涙の膜が張っていく。
「私を想って泣くイザベルも……ああ、泣き顔も可愛い」
顔を近付けてくるアデルバードの頬と胸に手を当てて、これ以上近付かないように必死で押さえる。
「想っていない! この変態っ!」
罵ってもご褒美にしかならないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
「気持ち悪いから着替えてください」
「抱きしめさせてくれるなら着替える」
「はぁ!?」
よく分からないやり取りの後、呼び鈴を鳴らしたアデルバードは侍従が用意したズボンと下履きに着替えた。
主の状態を見ても顔色一つ変えなかった侍従は、慣れているのか淡々と職務を全うしているだけなのか。イザベルは尊敬の眼差しを彼に向けた。
新しく淹れて貰った紅茶を一口飲んで、イザベルは気持ちを落ち着かせる。
「イザベル」
イザベルの隣に座ったアデルバードは、イザベルの肩を抱き寄せて彼女の耳元へ唇を近付けた。
「婚約解消は出来ないと、そろそろ諦めろ」
「嫌です。変態と結婚なんかしないわ」
「私をこんな体にしたのはイザベルだろう」
「くっ、語弊を招く言い方をしないでください」
約束だからと開いた膝の間に座らされたイザベルは、腰に当たるモノが何なのか考えないようにして下腹部を撫でる手を押さえた。
卒業式まで、あと半年を切った。
卒業式までに婚約の解消、もしくは疵物になってもいいから婚約を破棄してもらわないとこの変態と結婚させられてしまう。
王太子妃になるのは嫌ではないし王太子としてのアデルバードは嫌いではない。だが、毎日彼の性癖に付き合っていたら確実に精神を病む。
完全に逃げられなくなる前に、アデルバードの心を射止めるヒロインが現れてくれるのを願い、イザベルは天井を仰いだ。
✱✱✱
これにて性癖開花編+オマケの話は完結となります。
王子様の性癖を刺激するため、当て馬?にされたブリアンナや謹慎中のミネットも絡んだ話も考えているので、時々話を追加するかもしれません。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。