イザベル・アルザス公爵令嬢の誤算 〜婚約破棄を狙ったら婚約者の性癖が開花した〜
輝く金髪の髪に菫色の瞳、容姿端麗で立ち振る舞いも完璧な生徒会副会長。
淑女の手本だと周囲から評され、王立学園の生徒達から羨望の眼差しを送られている公爵令嬢イザベル・アルザスは、教室の窓から中庭を見下ろして目を細めた。
イザベルの視線の先には、中庭の日当たりの良いベンチには男子生徒三人と女子生徒が仲良く談笑していた。
一見すれば、放課後に仲の良い生徒達が集まり談笑しているだけだ。
人目を引く薄ピンク色の髪と高い声を出している女子生徒、彼女が腕を絡ませている銀に近い淡い金髪の男子生徒がこの国の王太子で、テーブルを挟んで彼女の向かいに座っている二人の男子生徒が宰相子息と騎士団長子息でなければ。
男子生徒達の話し声に混じって聞こえてくる、女子生徒の甲高い笑い声にイザベルは眉を顰めた。
「あれを見て。殿下を隣に座らせるだなんて、あの方は二月前に編入してきた平民でしょう?」
「お名前は確か……ミネットだったかしら?」
「まぁっ、殿下の髪に触れたわよ! 馴れ馴れしく殿下に触れているだけで信じられないのに、オリヴァー様とカイン様とも親しくするだなんて!」
イザベルの隣で中庭を見下ろしていた女子生徒達が口々に怒りの声を上げる。
天気の良い日は中庭のベンチに多くの生徒達が座り談笑しているのだが、今日はミネットが座るベンチの周囲は空いていた。
授業も終わった放課後で騒がしくしても咎められはしないとはいえ、男子三人と女子一人の組み合わせ、しかも王太子に触れるのは感心しない。
「イザベル様、よろしいのですか?」
「殿下がお許しになっているのでしょう。ご友人と親しくされていることに対して口出しは出来ないわ」
「そうですが、イザベル様という素晴らしい婚約者がいらっしゃるのに、あのように騒がしい平民の方と親しくされるのはいくら学園内では身分の差は関係ないとはいえ、殿下に対して不信感を抱きます」
女子生徒の声に重なり、ミネットの甲高い笑い声が聞こえてイザベルは息を吐いた。
ふと、教室の方を見上げたミネットと視線が合う。
目が合った瞬間、細められたミネットの瞳は窓から自分を見ている女子達、イザベルへの優越感と敵意に満ちていた。
「平民だから、というわけではなく彼女自身の考え方でしょう」
両手に高位貴族子息を従えた上に王太子と親しいのだと、女子達、イザベルへ見せびらかすために彼女は中庭にいるのだ。
可憐な見た目とは程遠い、ミネットの悪意と歪みを感じて寒気がしてきた。
「平民出身の女子で素敵な男子達に囲まれているなんて、まるで小説のヒロインですわ」
「ヒロイン?」
聞きなれない、しかし知っている単語にイザベルは目を瞬かせた。
「市井で流行っている、海を渡った外国で数年前にあった出来事を大衆向けにしたという小説です。とある国の学園を舞台にした身分差の恋愛小説で、平民の女子生徒が王子様と恋に落ちるのですが、二人の仲を引き裂こうとする貴族令嬢によってヒロインは嫌がらせを受けて、ついには階段から落とされてしまうのです。王子様から渡された御守りの力により軽症で済み、助かったヒロインは王子様と一緒に嫌がらせをした貴族令嬢を断罪し、二人は結ばれるという話です」
「嫌がらせをする貴族令嬢……なるほど、小説ならばわたくしがそのポジションということね。下賤な者が殿下に近付くなど無礼な、とでも言ってみようかしら。ふふっ」
自分で言ってみた台詞が面白くて吹き出したイザベルに、目を丸くして数秒固まった女子生徒達は我に返って慌て出す。
「い、いえ、イザベル様は嫌がらせなどしていません。悪役令嬢ではありませんわ」
「悪役ね。その小説を読んでみたいわ。貸していただける?」
笑顔のイザベルから発せられる圧力に負け、女子生徒達は頷くしかなかった。
淑女の手本だと周囲から評され、王立学園の生徒達から羨望の眼差しを送られている公爵令嬢イザベル・アルザスは、教室の窓から中庭を見下ろして目を細めた。
イザベルの視線の先には、中庭の日当たりの良いベンチには男子生徒三人と女子生徒が仲良く談笑していた。
一見すれば、放課後に仲の良い生徒達が集まり談笑しているだけだ。
人目を引く薄ピンク色の髪と高い声を出している女子生徒、彼女が腕を絡ませている銀に近い淡い金髪の男子生徒がこの国の王太子で、テーブルを挟んで彼女の向かいに座っている二人の男子生徒が宰相子息と騎士団長子息でなければ。
男子生徒達の話し声に混じって聞こえてくる、女子生徒の甲高い笑い声にイザベルは眉を顰めた。
「あれを見て。殿下を隣に座らせるだなんて、あの方は二月前に編入してきた平民でしょう?」
「お名前は確か……ミネットだったかしら?」
「まぁっ、殿下の髪に触れたわよ! 馴れ馴れしく殿下に触れているだけで信じられないのに、オリヴァー様とカイン様とも親しくするだなんて!」
イザベルの隣で中庭を見下ろしていた女子生徒達が口々に怒りの声を上げる。
天気の良い日は中庭のベンチに多くの生徒達が座り談笑しているのだが、今日はミネットが座るベンチの周囲は空いていた。
授業も終わった放課後で騒がしくしても咎められはしないとはいえ、男子三人と女子一人の組み合わせ、しかも王太子に触れるのは感心しない。
「イザベル様、よろしいのですか?」
「殿下がお許しになっているのでしょう。ご友人と親しくされていることに対して口出しは出来ないわ」
「そうですが、イザベル様という素晴らしい婚約者がいらっしゃるのに、あのように騒がしい平民の方と親しくされるのはいくら学園内では身分の差は関係ないとはいえ、殿下に対して不信感を抱きます」
女子生徒の声に重なり、ミネットの甲高い笑い声が聞こえてイザベルは息を吐いた。
ふと、教室の方を見上げたミネットと視線が合う。
目が合った瞬間、細められたミネットの瞳は窓から自分を見ている女子達、イザベルへの優越感と敵意に満ちていた。
「平民だから、というわけではなく彼女自身の考え方でしょう」
両手に高位貴族子息を従えた上に王太子と親しいのだと、女子達、イザベルへ見せびらかすために彼女は中庭にいるのだ。
可憐な見た目とは程遠い、ミネットの悪意と歪みを感じて寒気がしてきた。
「平民出身の女子で素敵な男子達に囲まれているなんて、まるで小説のヒロインですわ」
「ヒロイン?」
聞きなれない、しかし知っている単語にイザベルは目を瞬かせた。
「市井で流行っている、海を渡った外国で数年前にあった出来事を大衆向けにしたという小説です。とある国の学園を舞台にした身分差の恋愛小説で、平民の女子生徒が王子様と恋に落ちるのですが、二人の仲を引き裂こうとする貴族令嬢によってヒロインは嫌がらせを受けて、ついには階段から落とされてしまうのです。王子様から渡された御守りの力により軽症で済み、助かったヒロインは王子様と一緒に嫌がらせをした貴族令嬢を断罪し、二人は結ばれるという話です」
「嫌がらせをする貴族令嬢……なるほど、小説ならばわたくしがそのポジションということね。下賤な者が殿下に近付くなど無礼な、とでも言ってみようかしら。ふふっ」
自分で言ってみた台詞が面白くて吹き出したイザベルに、目を丸くして数秒固まった女子生徒達は我に返って慌て出す。
「い、いえ、イザベル様は嫌がらせなどしていません。悪役令嬢ではありませんわ」
「悪役ね。その小説を読んでみたいわ。貸していただける?」
笑顔のイザベルから発せられる圧力に負け、女子生徒達は頷くしかなかった。