あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
私の姿を見つけると、彼はゆっくりと距離を縮める。
「きてくれてありがとう」
私は返す言葉が見つからず、小さく頷くに留めた。
「明日、東京に帰る」
それは予想もしなかった言葉だった。
彼は一歩、また一歩と私との距離を縮める。
「なんで、帰ると思う?」
「仕事ですよね」
なんでこんなわかりきったことを私に聞くのだろうと思った。
だがそうではなかった。
「婚約破棄するためだ」
「え?」
私は驚きのあまり大きな声が出てしまった。
「婚約破棄して、君と全てを始めたいんだ」
一瞬嬉しいと思ってしまった。
だが、すぐにそれは不安へと変わった。
——私のために?
もしそうなら、こんな無謀なことはやめて欲しいと思った。
だって彼には結婚する意味が存在しているからだ。
それを破棄するということは、裏切り行為に値する。
そこまでして私を選ぶなんて、周りが許さない。
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