あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
だがふとよぎったのは祖母の言葉だった。
『何事も自分の気持ちに正直になることも大事だからね』
だった。
「本当に……待ってていいの?」
「ああ、だから婚約破棄できたその時は、俺のものになってほしいって……君の気持ちも聞かず一人先走っ——」
気がつくと私の足は言葉よりも先に彼へ向かっていた。
そして小川を渡り、彼に抱きついた。
「待ってる」
その言葉だけで精一杯だった。
もし、彼が戻ってきたら、その時は柊一のことを話そう。
彼が私の背中にそっと触れ、すぐにその力を強め、ギュッと抱きしめた。
「今の言葉に嘘はないな? 帰ってきてまた再会した時のように警戒したりするなよ」
「だってあれは……」
柊一がいたからとはいえなかった。
「あれは何?」
「まさかもう一度会えるなんて思ってもいなかったから」
「でも会えた。それってもう俺たちは離れられないてことなんじゃないの?」
そうあってほしい。
でも彼と同じように私の声なきゃいけない壁がある。
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