あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「絶対に説得する。そして必ず帰ってくる。だからその時は俺だけのものになってほしい」
「はい」
「送って行きたいところだけど……お互いに車だったね」
「大丈夫。ちゃんと帰れるし……それより気をつけてねって……これ」
私は祖母の作ったおかずの入った紙袋を差し出した。
「これは?」
「祖母があなたに会う口実を作ってくれたの。よかったら食べて」
「ありがとう」
本当はもっと一緒にいたい。でもそんな贅沢なこと言ってられない。
「じゃあ、帰るね」
手を振ってきた道を戻ろうとした。すると彼が私を呼んだ。
振り返ると彼が今までにないほどの飛びきりの笑顔を向けていた。
彼の周りをたくさんの蛍が飛び交い。とても幻想的だった。
「翼、愛してる」
嬉しくてそのまま飛びつきたい気持ちになるのを必死に堪えるように握りおぶしに力を入れた。
「私も、愛してます」
これ以上ここにいたら本当に帰りたくなくて、私はきた道を走った。
そして車に乗り込むと急いで車を走らせた。
胸がドキドキして、幸福に包まれていた。
でもふと不安が過ぎる。
本当に手放して喜んでいいの?
柊一の存在を知ったら彼はどう思うだろう。
勝手に産んでしまったことを彼は快く思ってくれるだろうか……。
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