あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「奥寺さんの方から別れを切り出していただければ、流石の悠一さんも諦めてくれるでしょう。彼のことを思っているのなら、彼の将来を考えてくれるのなら、どうか別れてください」
こんなこと絶対に嫌。
もちろん彼だってこんなこと望んでない。
今もきっと苦しんでる。
ただ、彼の立場を考えると、自分の気持ちだけを優先していいものだろうか。
ここまでする人たちだ。
私がごねたからと言ってはいそうですかと引き下がることはないだろう。
逆にいろんな手を使うだろう。
立場の弱い人間はいつだって弱者だ。
それは私が会社を辞めた時、嫌というほど味わった。
自分の居場所がなくなってしまう怖さ。
私のせいで彼の人生を狂わしてしまうなんていやだ。
私は深呼吸をした。
「これはお返しします」
私は封筒を突き返した。
「あなたも強情——」
「違います。彼のことは諦めます。でもこのお金はいただけません」
加賀美さんは少し馬鹿にしたような目で私をみると、その封筒を受け取った。
「そんな綺麗事言ってる場合ですか? お子さんいらっしゃいますよね」
「え?」
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