あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
何年ぶりの東京だろう。
まさかこんな形で東京に来るとは思いもしなかった。
朝倉ホールディングスの社屋は都会の真ん中のビルが建ち並ぶ一角の中、一際高いビルだった。
先に悠一さんが降りると腕を広げ柊一を抱っこした。
続いて私が荷物をもって降りた。
彼が柊一を抱っこしている。
二人が親子だと知っているのは世界でたった一人。私だけだ。
——柊ちゃん。良かったね。パパに抱っこしてもらえて。
でもこれが最初で最後だと思うと胸が苦しくなる。
エレベーターで一階まで降りると既に車が待機していた。
私たちはそれに乗り込むと、一番近い大きな病院の救急外来へ向かった。
受付で問診票に記入をし、名前が呼ばれるのを待つ。
慣れない乗り物と高熱で疲れている柊一が弱々しい力で私にしがみつく。
こんな時でさえ何もできない自分に苛立ちを覚える。
しばらく待っていると
「奥寺柊一さん、中待合でお待ちください」
「はい」
すくっと立ち上がると視線を感じた。
真向かいに座る悠一さんだった。
その目はかなり驚いているようだった。
恐らく子供の名前に反応したのだろう。
柊一の一は彼の名前からもらったものだ。
「もう私たちは大丈夫ですので」
これ以上一緒にいたら全てがばれてしまうと思った私は、遠回しに帰ってほしいと訴えたのだ。