あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「名前以外、お互いのこと知らないでしょ? だから次に会う時はお互いのフルネームを教え合うっていうのはどうですか?」
「フルネームなら今ここで——」
「それじゃあつまらない。これは次に会う口実ですよ」
なんでこんなに嘘をすらすら言えるのだろう。
単に自分を守っているだけじゃない。
だが悠一さんは納得できないようだ。それでもなんとかここを切り抜けないと……。
「また彰さんの店で会いましょうよ。来週の金曜日はどうですか?」
「金曜日か……わかった。じゃあ、あの店で待ってるから。それと次に会った時も帰さないからな」
彼の熱い瞳に、もう一度触れたいと思ってしまう。でもそんなことをしたら……。
「はい。じゃあ……私は先に出ますね」
一礼してバッグを肩にかけた。
「翼!」
悠一さんが名前を呼んだ。
「なんですか?」
私は振り向かなかった。だって少しでも甘い言葉を投げかけられたら、自分の意思が揺らいでしまうから。
それほど今の私の意思はグラグラと揺れていたのだ。
「気をつけて」
「うん。行ってきます」
——そしてさようなら
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