あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています

「彼女は?」
カウンターに座るとオーダーよりもまずは、彼女がここに来たかを確認する。
あの日、彼女との別れ際、連絡先の交換をしたいと言ったら、拒まれた。
その代わりに一週間後に、この店で会おうといって彼女は俺の前から姿を消した。
「来てないよ」
彰は首を横に振ると、ジントニックを差し出した。
こんなやりとりをもう1ヶ月も続けている。
彼女に関して知っていることといえば、名前だけ。
フルネームは知らない。
彰は知ってるだろうと思ったが、あいつも彼女の名前しか知らなかった。
こんなことになるのならあの時、彼女を無理やりでも友人の所に行かせなきゃよかったと思わずにはいられなかった。
すると彰が俺の前にカクテルを差し出した。
「俺、頼んでないけど」
「わかってるって……これ翼ちゃんがお前と出会ったときに飲んでた——」
「ブルームーン?」
「そう、彼女が元気になるようなお酒を作って欲しいと言われて作ったんだ」
俺は青く幻想的な酒を口に含んだ。
飲みやすいすっきりとした味わいだった。
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