あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています

２年前までは別の会社で働いていたが、そろそろ会社を盛り上げて欲しいと父に言われ、この会社に入社した。
私生活はというと、いい寄る女性はたくさんいた。
『あなたが好きです』というのは簡単だ。
だが、どの女性も俺自信に惹かれたというより、俺の外見や肩書に魅力を感じている女性ばかりだった。
そういう女性と付き合って長続きすることはなかったし、何のために付き合っているのかわからなくなり、次第に恋愛そのものに興味を持てなくなった。
追い討ちをかけるように、ここ半年ほど前から大企業のご令嬢との縁談話をもちかけられ、うんざりしていた。
彼女との出会いはそんな時だった。
俺のことを何も知らない彼女との会話は楽しかった。
自然体で、駆け引きなし。彼女と話していると、素の自分を出せた。
もっと話をしたい、もっと彼女を知りたい。
こんな気持ちをあの短時間で感じてしまっていた自分に正直驚いていた。
もちろん彼女のルックスも素敵だった。
セミロングの艶のある髪の毛や、クリっとした目に、ぽってりとした唇。
服装も、落ち着きがあり、胸元に光る、ティアドロップのチャームのついたネックレスがとても似合っていた。
でもそれは彼女に惹かれた理由の一つにしかすぎない。
夢を持って上京したが、裏切られた。だが人に流されることなく自分の信念を貫いている姿に惹かれた。
俺の励ましに、今にも泣きそうなのに笑顔を見せた、そのひたむきな姿に愛おしさを感じた。
だからと言って彼女は媚を売るような態度はなく、元気をもらえたと喜んでいた。
こんな女性今まであったこともなかった。
だからこれで終わりにしたくなかった。
それなのに……。
「きっとここに来れない理由があるのかもしれないよ」
「……もしそうだったとしても……もう一度彼女に会いたい」
結局その後も彼女と再開することもなく、無情にも月日だけが過ぎていった。