あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「政略結婚なんだ。親同士が決めた愛のない結婚だ」
彼の声は不本意だと訴えているようだった。
「政略……結婚」
私の呟きに彼はさらに強く私を抱きしめた。
「本当はすごく君に会いたかった。会いたくて、会いたくて……この2年間、君のことを忘れたことなんてなかった。俺にとってたった一人の女性は翼だけだ」
どうしよう、彼に聞こえてしまうほどドキドキしている。
私だって同じ気持ちだった。
一夜限りの短い恋だったけど、私にとっては一生物の恋だった。
だから柊一を産むことに何の迷いもなかった。
でも……。
「あなたが結婚するのを私には止める術がない」
子供の存在を明かせばいいじゃない。
そう心の声が私に話しかける。
だけどそれだけはできなかった。
ご両親が決めた結婚なら尚更だ。
「わかってる。君に何かしてほしいわけじゃない。ただ、結婚までの残り少ない時間を君と過ごしたいんだ」
「え?」
「昨日いった、恋人になってほしいと言うのは、冗談でも何でもない。俺の本心だ。だけどいまのままでは君と結婚はできない」
どうしよう、と言う言葉はでてこなかった。
元々、彼と一緒になれるなんて思っていなかったのだから。
ただ……。
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