あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています

私は、宿泊するビジネスホテルのルームキーをフロントに預け、最後の夜をどうやって過ごそうか考えていた。
あてもなくぶらぶら歩いていると、一件のお店の前で足が止まった。
店の名前は「ひとりぼっち」
ここは私が行きつけと言える唯一のお店だった。
友人が「大人な店をみつけたんだけど、一人じゃ勇気がないから」というので一緒に行ったのは３年前。
最初のうちは友達と行っていたけど、そのうち一人で行くようになった。
ここは日々の疲れを癒してもらうために通ってた店だったから元彼と一緒に行ったことはなかった。
でもここ何ヶ月かは、新ブランドの立ち上げだったり、赤坂先生とのこともあり、精神的にキツく店に顔をだせずにいた。
本当はそんな時こそここで元気をもらうべきだったんだけど……。
私はアンティーク感のある木のドアをゆっくりと開けた。
石畳の通路はひんやりとした空気に包まれ、まるでロンドンの狭い道のようだ。
会話の邪魔にならない程度に聞こえるBGMはジョージ・ガシューインの「ラプソディ・イン・ブルー」
店の雰囲気とジャズが合っているのもこの店のいいところ。
店の人に案内されたのはカウンター席。
目の前にはいろんなお酒のボトルが並べられ、バーテンダーがリズミカルにシェイカーを振っている。
見慣れた店内もこれが最後かと思うと感慨深い。
「久しぶりだね」
おしぼりを手渡される。