あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
自分で言うのもなんだけど、今日のおかず美味しくできてる。
でもおばあちゃんの味には叶わない。
今日持ってきたナスの煮物は、薄すぎず、濃すぎず絶妙な塩梅だ。
「君と君のおばあさんの作る料理は本当に美味しいよ」
「祖母はともかく私はまだまだです」
「そんなことない」
そういって彼は箸を置いた。
「君の手料理が食べれて、本当にうれしくて……できることならずっとこの島にいたい」
そういえば、悠人さんはいつまでこの島にいるのだろう。
「あの……いつまでこの島にいられるんですか?」
いるんですか。そう聞いてもよかったけど、なんか迷惑な言い方になりそうで、敢えていられると尋ねた。
「現場の責任者だから建物が完成するまで。だからそう長々とは……」
「そうですか」
私に何かを言う権利はない。
それに彼には婚約者がいるのだから……。
わかっていてもやっぱり辛い。
それが顔に出てはまずいと思い私は急いでお飯を食べた。
「ご馳走様でした。それでは後片付けをしたら帰りますので」
そういって立ち上がり食器を片付けようとした。その時だった。
「待って」
彼が待ったをかけた。
「なんでしょう」
「片付けはいい。自分でする」
「でも……」
「そのかわり、このあともう少しだけ付き合って欲しい」
「え?」
「頼む」
頭を下げお願いされたら拒めない。
「わかりましたが、こういうのは今回限りにしていただけませんか?」
「わかった」
彼の顔がパッと明るくなった。
もう好きになっちゃいけない人なのに、胸の高鳴りは一向に静まる気配がない。
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